中学三年生の冬、受験勉強が佳境に入った頃だった。ふと、自分の部屋の机の周りに落ちている抜け毛の多さに気づいたのが始まりだった。最初は気のせいだ、疲れているだけだ、と自分に言い聞かせた。でも、シャンプーをするたびに指に絡みつく髪の毛の束は、日を追うごとにその存在感を増していった。そしてある日、風呂上がりに濡れた髪を鏡で見た時、頭頂部の地肌が以前よりもはっきりと透けて見えた。血の気が引くとは、まさにこのことだった。その瞬間から、僕の世界は灰色に変わってしまった。学校へ行っても、授業の内容なんて全く頭に入ってこない。友達が僕の頭を見て何か噂しているんじゃないか、後ろの席の女子に「ハゲてる」と笑われているんじゃないか。そんな疑心暗鬼に駆られ、人の視線が怖くてたまらなくなった。休み時間に友達の輪に入ることもできず、ただ窓の外を眺めて時間が過ぎるのを待つだけ。大好きだった部活の練習中も、汗で髪が額に張り付くのが嫌で、全く集中できなかった。いつしか、外出する時はいつも深く帽子をかぶるようになった。帽子は僕にとって、世間の視線から自分を守るための鎧だった。親にも、一番仲の良かった友人にも、この悩みを打ち明けることはできなかった。カッコ悪い、情けない、恥ずかしい。そんな気持ちが邪魔をして、たった一言「髪のことで悩んでいる」と言う勇気が出なかった。孤独だった。この広い世界で、こんな惨めな思いをしているのは自分だけなんじゃないかと本気で思った。そんなある夜、眠れずにスマートフォンの光の中で「10代 抜け毛」と検索した。そこには、僕と同じように、いや、僕以上に深刻な悩みを抱える同世代の書き込みが溢れていた。その一つ一つを読んでいくうちに、僕の目からは自然と涙がこぼれていた。辛いのは、僕だけじゃなかった。みんな同じように悩み、苦しみ、それでも何とか前を向こうとしていた。その事実は、暗闇の中に差し込んだ一筋の光のように、僕の固く凍った心を少しだけ溶かしてくれた。すぐに何かが解決したわけではない。でも、世界でたった一人ぼっちだという絶望的な感覚から解放されただけでも、それは僕にとって大きな一歩だった。次の日、僕は震える声で、母親に「相談したいことがある」と話しかけていた。
鏡を見るのが怖かった僕がいた